2020.10.26 UP

佐賀駅バスセンターから古湯・熊の川温泉へのバス往復乗車券に、両温泉で使える利用券1,000円分が付いているお得な「ぬる湯くつろぎきっぷ」。料金1,600円と、なんと通常より最大1,220円お得!! かつて、佐賀県の公式ウォーキングアプリ「SAGATOCO」のおかげで1カ月に約4キログラムの減量に成功したが、ステイホームを言い訳にすっかり元に戻ってしまった…。このままではいけない!! この物語は、ひとりの中年男子が「ぬる湯くつろぎきっぷ」を手に、ある休日、古湯・熊の川温泉から再び歩き出すところから始まる…。

※これから始まるコラムは「モテモテさが」2020年9月号に掲載されたものです。なぜこのサイトに再び掲載されたのか? その事情は文章最後に記載されています。

 

 

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■限定2000枚のきっぷ

 

まずはバスの時間をグーグルマップで調べる。自宅から古湯温泉への経路を検索すると、最適なバスの時間まで教えてくれるから便利だ。JR佐賀駅に着いたら、構内にある「佐賀市観光案内所」で「ぬる湯くつろぎきっぷ」を購入。同きっぷは2シートが1セットになっており、一番の上のシートはバス往復券と300円の温泉利用券がある。下のシートには350円の温泉利用券が2枚ついている。それらをちぎって使う。温泉利用券は20施設で使用可能で、入浴のほか、飲食などにも使えるという。販売は来年2月末まで。限定2000枚ということなので、興味のある方は早めにどうぞ!!

 

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バスセンター7番のりばで待っていると「古湯温泉行き」バスが到着。さっそく乗り込む。バスは市街地をしばらく走った後、20分ほどして川上峡に到着。赤い橋を渡り終わると、「ここから先は自由な場所で降車できます」とアナウンス。ちょっと降りてみたい衝動にかられるが我慢我慢。車窓からどんどん緑が鮮やかになる風景を楽しむ。バスは嘉瀬川沿いを上り、約45分で古湯温泉に到着。すごく快適な旅だった。

 

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街歩きスタート。SAGATOCOアプリを立ち上げつつルートを考える。とりあえずご飯をどうしよう。まずはバス通り周辺を歩く。石畳が足に心地よく、いろんな模様があって楽しい。「古湯温泉」と書かれたゲートの手前に小料理店を改装したような店「シェ・ハイジ」があった。自家製ヤギミルクを使ったチーズと地元野菜のデリプレートと書いてある。しかもビオワインがある!! 今日は自動車を使わないので心置きなく呑める。ここだと決めたが店内は満員。席が空いたら連絡をもらえるということなので、しばらく散歩しよう。

 

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古湯は芸術家が愛した町。夭折の天才画家・青木繁や近代短歌を確立した斎藤茂吉、中国近代文学・歴史学の先駆者である郭沫若(かく・まつじゃく)が滞在した。中でも推理小説家の笹沢左保はこの町を愛し、実際に暮らしていた。その住居の一部が「記念館」として有志により公開されている。お店の込み具合から、30分以上かかると考え、温泉街から少し離れた「笹沢左保記念館」まで足を伸ばすことにした。

 

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旅館が並ぶ路地を歩いて、貝野川にかかる、かじか橋を渡る。グランド脇の木陰を行き、中の橋を越える。対岸にはレンガ造りの発電所が見える。嘉瀬川の流れも速い。しばらく坂を上がると、緑の棚田の先に洋風の住宅が見えてくる。「笹沢左保記念館」だ。

 

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  笹沢左保は1930年、横浜市生まれ。推理小説、サスペンス小説、時代小説など、約40年の作家生活で380冊もの著書を残した。代表作「木枯らし紋次郎」は1970年代に名匠・市川崑監督がTVドラマ化。アウトローなヒーロー像が社会現象となった。87年、古湯映画祭へゲスト出演した際「田舎暮らしの経験のない私が空想していた故郷の風景がここにある」と、この地に居を構えることを決断した。7年間にわたり、ここで作品を作り続けた。

 

■ぬる湯で読書

 

現在は執筆していた書斎が記念館として公開されている。入館料は300円。直筆原稿など貴重な資料が展示されている。笹沢の全著作も揃っているが、これは館長の島ノ江修治さんら有志が集めたもの。同館は、各旅館に「笹沢文庫」として本を置いてもらうなど、笹沢左保を軸とした町おこし活動に取り組んでいる。文豪が愛した風景を眺めながら小説家気分を味わっていると、お店から連絡が。温泉街へ戻る。

 

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「シェ・ハイジ」の店内は外観と違い、エキゾチックな佇まい。入口にはカヌレなど美味しそうな焼菓子が置いてある。さっそくデリプレートを注文。もちろんビオワインの赤も。しばらくしてプレートとグラスワインが運ばれてくる。まずは冷たいポタージュ。なんとも爽やかな舌触り。かぼちゃとヤギミルクで仕立てられているという。胃が落ち着いたところで、ヤギミルク入りチーズのトーストを。うーん、炭をまぶした独特な香りとチーズの清冽な食感がワインにぴったりだ。ナスのグリルマリネや豚肉とバジルのテリーヌなど、大満足の昼ごはんとなった。

 

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お腹も満足したし、次は「ぬる湯」へ行こう。英龍温泉の入浴料は半日券370円。受付で「きっぷ」2枚目の350円券を渡し、差額の20円を払う。以前、こちらで入浴した際、湯船に浸かりながら読書を楽しむお客さんがいた。受付で許可をもらい、ついに挑戦してみる。事前に古書店で笹沢左保「傷だらけの放浪」を購入していたので、防水パックに入れてお風呂へ持ち込む。 古湯温泉は不老長寿の霊薬を求めてきた徐福が「湯の神様」のお告げにより発見したといわれている。泉温38度とぬるめのお湯とぬるぬるした心地よい肌触りから「ぬる湯」と呼ばれる。体をしっかり洗い、いよいよ読書タイム。浴槽の縁に頭を乗せ本を読む。窓からの光が水面に反射して本を照らしてくれる。30分くらいで出る予定だったが、笹沢独特の速いテンポで進む物語についついページをめくる手が止まらなくなり、気づけば1時間近くに。風呂上がり、じっとりと汗が出てくる。体の中から熱が出てくる感じ。

近くのスーパーでビールを購入。足湯で休憩しながらチルアウト。SAGATOCOを見ると、ここまでで約5千歩。もうちょっと歩きたい。まだチケットが650円分残っているし、せっかくなので熊の川まで下りることに

 

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■ご褒美の滝 

 

温泉街を下り、斎藤茂吉の歌碑の横を通り、宮ノ渕橋を渡る。田んぼを眺めながらしばらくすると吊橋が見える。ここは車で国道を通るたびに気になっていた。長年の念願をかなえるため渡ってみる。「定員3人」という注意書きにちょっとびびりながら足を進める。数メートル行くと揺れだす。 眼下の轟々と流れる急流が恐怖心をあおるあおる!! 足早に進み対岸に到着。なかなかスリリングな体験だった。国道へ出る。木立の中から白い岩盤を流れる急流が見える。せっかくの歩きなので「雄渕雌渕公園」のある旧道を行こうと思ったが分岐点で「通行止め」の看板。国道を下ることに。雄渕トンネルに入らず、川沿いの脇道へ。陽射しは強いが木陰が多く、そんなに暑く感じない。10分ほどで「雄渕雌渕公園」に。対岸へ渡る橋のたもとに郭沫若の立派な文学碑があった。 

 

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郭沫若は1892年(明治25年)、中国生まれ。1914年に日本へ留学し九州帝国大学医学部を卒業。第二次世界大戦後は中華人民共和国の建国に参加。政務院副総理、中国科学院院長を経て、54年には全人代常務副委員長に就いた。一方で42年、代表作である戯曲「屈原」を発表。近代文学・歴史学の先駆者として活躍した。

郭は24年、妻子を連れて、熊の川と古湯に約1カ月逗留する。私小説的作品「行路難」の中には「夕日が川上川の川面に照っていた。澄んだ清々しい流れがきらきらと輝く白い石の間から歓呼の声をあげて、湧き立っていた。青翠の寒林、まっかなまんじゅしゃげ、黄金色の柿のある両岸の高い山も、一進一退して人に向かってうなずき微笑しているように思われるのだった」という一文がある。碑の周りはモミジが瑞々しい青葉をつけていた。秋には美しい紅葉が楽しめそうだ。

そばにあった湧き水で顔を洗ってさっぱりしたら、先へと歩を進める。国道との合流地点の直前、道路の下に滝を発見。歩いてここまで来たことのご褒美。ひんやりした空気が疲れた体を癒やしてくれる。そこから国道を延々と歩き、ようやく熊の川温泉に到着。結局、1時間近く、約6000歩の旅だった。

 

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■泉温32度 日焼け肌癒やす

 

とにかく汗を流したい。古い建物が残る趣き深い町並みを抜けて「熊ノ川浴場」へ。なぜか料金が時間ごとに違うのだが、16時すぎだったので500円。300円チケットを渡し、差額200円を払う。熊の川温泉は弘法大師空海が全国行脚中に訪れ、水鳥が水浴びする様子を見て温泉を発見したと伝えられている。1924年の大水害までは嘉瀬川の河川敷で露天風呂的に築かれていた。

同浴場は川沿いにある。せせらぎの音を楽しみながら目を閉じると至福のひととき。泉温は約32度。古湯と比べてだいぶん冷たいのだが、そこそこなウォーキングをしてきた身としてはすごく気持ち良い。陽射しで火照った肌を優しく包んでくれる。源泉に浸っていると疲れがどんどん取れていく。これだけ長時間外にいると、普段ならひどい日焼けになるのだが、今回はまったく肌の赤みが出なかった。まさに温泉効果だ。

1時間くらいゆっくりしてしまったが、先客のみなさんはまだまだ湯船の中。もうちょっといたいが、バスの時間を考え風呂から上がる。着替えて館内を巡ると休憩所があった。嘉瀬川を見ながらゆっくりくつろげる、抜群のロケーション。ここなら何時間でも気持ちよく過ごせそうだ。屋外には飲料用の蛇口があり、入浴者は10リットルまで持ち帰り可能。番台の方に教えてもらいながらペットボトルに入れてみる。

 

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  最終バスまであと30分ちょっと。チケットは350円分残っている。最後に一杯!ということで近くにある「夢千鳥」へ。「湯上がりセット」は生ビールと枝豆に加え、から揚げ、ざる豆冨、揚げ出し豆冨の中から1種を選べて1000円(税別)。残念なことに生ビールと枝豆がなかったが、代わりのものを出してくれた。お腹一杯だったので、冷奴がありがたい。冷えた瓶ビールがなんとも体にしみる。

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最終バスは熊の川温泉を17時53分発車。ほろ酔い気分で旅を振り返りつつ、持ち帰った温泉水を飲んでみる。やわらかい口当たりで焼酎ロックに使ったら美味しそう‥。なんてことを考えながら、車窓から夕暮れの佐賀を眺める。歩いて、食べて、温泉に入って。「ぬる湯くつろぎきっぷ」でとことん満喫した休日だった。ちなみに体重は変わらず。まああれだけ食べて飲めばね‥。

=つづく?

 

▼取材終了後、筆者と担当Mさんとの会話

筆者「いやー、お散歩企画面白かったです。何度も行ったことある街なのに、歩くと見えてくる風景が違うというか」

担当M「結構、飲んでましたよね」

筆者「えっ‥お酒の量はそれほどでもないかと‥」

担当M「公共交通機関を使ったからこそ、という感じでよかったです」

筆者「あっ、そうですね。鉄道やバスで移動して散歩する最大のメリットは、汗をかいた後にお酒を飲めることかもしれません。この組み合わせで佐賀県内を全部周ったら楽しそうですね!」

担当M「周りますか」

筆者「えっ?」

担当M「県内20市町を公共交通機関で移動して散歩するコラムってどうでしょう?」

筆者「ええっ!(20もあるのか!) まあ、それは楽しそうですね。定期的に歩けばダイエットにもなりそうですし‥。うん、やりたいですね」

担当M「ただし来年3月末までに全部周ってください」

筆者「えええっ‥ それって毎週掲載くらいのペースになるんじゃないですか」

担当M「難しいですか?」

筆者「いや、なんとかなるとは思います‥けど」

だいたいこのようなやりとりの結果、当コラムの連載が決定。

          • 公共交通機関で現地まで移動
          • 歩く距離はだいたい2km
          • 来年3月末までに全20市町を散歩する

というのが基本ルール。とはいえ歩いたことがない地域も多い。そこで、いろんな人に情報提供をお願いしたいので、みなさんのインスタグラムの投稿を参考にしたいと思っています。通勤中や散歩しているときの何気ない風景を「#歩こう佐賀県」のハッシュタグをつけて投稿してください! また当コラムのインスタアカウント「burabura_saga」のフォローもよろしくお願いします!!! 急遽始まったこの企画、いったいどうなることやら‥。

 

 

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