中年男子が佐賀県全20市町をぶらぶら歩く連載の14回目は、昭和の情緒が色濃く残る大町町。
ルールは
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- 公共交通機関で現地まで移動
- 歩く距離はだいたい5km
- 2021年3月末までに全20市町を散歩する
- 美味しいものをきちんと紹介する
- お酒はほどほどなら大丈夫!
- 基本はぶっつけ本番。面白いものに当たるまで歩くべし
- 旬の風景を探そう
当初は、祐徳バスで武雄市北方町との境である赤坂のバス停で下りて大町を歩くプランを用意していた。しかし予定時刻にバス停に来た車両に乗ったら、なんと別の路線。途中で気づいた時には後の祭りだった。1時間に数本しか停車しないバス停で同時間帯に2台来るとは思わなかった。ちゃんと確認して乗らなかったことを反省。
結局、最寄り駅まで歩き、特急で肥前山口駅へ。そこから普通列車に乗り換えて大町駅にやってきた。いろいろあったけど、ここからお散歩スタートです。
駅を出てどこへ行こうかと思案していると、国道34号を渡った先に鳥居があった。下を潜る。商店街があったのでぼんやり眺めながら行く。途中、隣家の痕跡が見事に残った民家の壁面があった。
突き当りに石段があった。ゆっくり上って100段。福母八幡宮の境内に至る。お手水が花で綺麗。側には「花手水の撮影はお参りの後にお願いします」との注意書き。それはそうだな。心を落ち着けて本殿に向う。
お参りした後、花手水をじっくり楽しむ。ヒマワリ、ポーチェリカ、ランタナ、ペンタス、ジニア(百日草)、ジャスミン、ケイトウなど、色とりどりの花が浮かんでいる。件の注意書きの下にイラスト付きで紹介されいるので勉強になる。
さらに境内を散策。本殿を横から見る。切妻屋根・平入(入口が切妻側ではない)の2つの建物が前後に並んでいるので八幡造だ 。八幡さまを祀っている神社は同じ構成になっている。神社は神様ごとに建物の構成が違うので面白い。
神社を裏から下りる。ため池があった。堤からは大町の町並みが見渡せる。今後のプランはどうしようか。まず気になったのが緑の巨大な大屋根。山の中腹にある煉瓦の建物もいってみたい。堤の階段を下りて、住宅の間の狭い道を行く。
路地から通りに出る。味のあるコンクリート壁の前には狭い空き地。先には一軒だけ飲み屋があった。まだ正午だったが、暖簾が出ていたのでのぞいてみたら営業準備中とのこと。ぶらっと歩いて再訪することに。
なだらかな坂を上る。10年前、この辺りには木造の大きな屋根が道にかかっていたけど、もうなくなったみたい。少しづつ風景は変わっていく。
「広場マーケット」に入ってみる。肉屋さんとおかず屋さんと青果店が営業中。ゲームコーナーには常連さんがいて黙々とスロットを打っていた。静かな時が流れていく。
そんな空気感に必死で抵抗しているみたい、なんだか賑やかなお肉屋さん。圧がすごい。激推ししている炭鉱焼豚を少し分けてもらう。ご主人に、どういう食べ方が良いか尋ねたところ、「そりゃビールのつまみにするのが一番だよ」との答え。古いレジも良い味を出している。
マーケットの横にあるスーパーでビールを物色。コンビニじゃほぼ見かけない250ml缶がある! と思っていたらさらにレアな 125ml缶もあった。お店の人によると、125ml缶を一度に何十本も買っていく常連さんがいるらしい。経済的な観点からいえば、350ml缶とかもっと大きな缶を買った方がお得。でも、ビールは開封した側からどんどん炭酸が抜けていく。あの清冽な飲み口を何度も味わいたかったら、一口で一気に飲めるサイズを選ぶのが正しい。リングプルを引き起こすポンっという音も何度も楽しみたい。この町には、そういう家飲み上級者がたくさん住んでいるのかもしれない。もちろん、アルコールの飲みすぎを止められている人もいるだろうが。
さらに坂を上りながら見晴らしの良い場所を探す。途中の町並みも昭和感満載。象さんマークのクリーニング屋さんのロゴ。DIEという文字が眼に飛び込んできた。「DIE=死ぬ」とは穏やかじゃないな、とじっくり見てみる。次は筆記体で「gute」。ん、これは英語じゃなくてドイツ語なんじゃないか? 「DIE gute TEXTILPFLEGET」。訳すと「良いテキスタイルケア」。ドイツ=良い製品というイメージ戦略なのだろうか。
ほぼ片持ちの駐車場屋根。上の敷地に建てたポールから伸びたテンションで屋根を支えている。なかなか見ない構造だ。流石につっかえ棒が一本入っているが、部材が細くてカッコイイ。きっと既製品ではないと思う。ハンドメイドの面白さがある。
中腹に木造建具の連続窓が印象的な建物を発見。3色ポールが回転していたので理美容店なのは分かったが店名はどこにも入っていない。一周回って最近ありそうなオシャレサロンのようにも見える。気になったので引き戸を開けてみる。畳の小上がりがあり、ご主人らしい男性がくつろいでいた。大きな鏡があるカットスペースでは奥さんが常連さんの髪を仕上げている。ここはいつごろからやっているんですか?と聞いたところ、奥さん「大分前からやっていますよ。もうずいぶん古いです」。ご主人「古いっていうなよ…親父の大事な形見なんよ…」。
更に坂を上る。ところどころ路地に入りつつ煉瓦倉庫あたりを目指す。見事なしだれ桜を見つけたので、近くに寄ってみる。民家の庭先だったので、ここでの飲食はちょっと難しそう。
煉瓦の建物は「大町煉瓦館」という名前だった。かつて炭鉱の変電所だったようだ。現在は各種イベントを行うコミュニティの場として活用されている。でもこの日は開いていなかった。残念。
一応目的を果たしたので、ここからは下り坂。カーブ際にある民家の壁に小さな鉄の階段がくっついていた。その上にはコンクリートブロックの壁が出来ていて階段としての用はなさない。まるで路上観察学会の純粋階段みたいだ。
道端に腰掛け一休み。大町の町並みを眺めながらビールを注ぐ。250ml缶はマイグラスにぴったり。炭鉱焼豚はほのかに甘く、おやつ感覚でサクッといける。350mlだと少々腰を据えて飲む必要があるが、250mlだとクイッといける。酒飲みとして大事なことを見知らぬ大町町民に教えてもらった。
長屋を上からみる。住宅が改築されてきた履歴が丸わかりで面白い。最初は単純な三角屋根の家が、両側に下屋を付けていく。元は同じ型の家なのに、住み手の改築で少しずつ表情が変わっていく。
再び路地 へ。花と暮らす家や煉瓦屑 で作ったモルタル壁 。大きな側溝の上の空間を見逃さず活用する。住民のバイタリティを感じる。
遠くから浮かんで見えた 大屋根 。オリオンプラザという半屋内運動場だった。大阪万博で太陽の塔の足元を覆っていたお祭り広場と同じようなスペースフレーム構造で作られている。中では子供たちが気ままに遊んでいた。
先ほどの 飲み屋に戻る。カウンターのみ5席。昼から日本酒 最高!! 店内に貼っているポスター類も味わい深い。伝説の1本三味線奏者・カックンチャンの写真があった。戦後直後、白石辺りを回っていたという。残念ながら音源は残っていないらしい。どこかで録音した人がいると思うのだが。
このお店の広告。椎名誠作品の挿絵で有名な沢野ひとし画伯風。ご主人の友人が書いたイラストとのこと。味わい深い。
このポテサラが絶品!! じゃがいもを全部潰すのではなく、一部をゴロっとしたまま残すことで食べごたえのある逸品になっている。
同店は元々、夜勤職場のある工場の人たち向けに昼から営業していたという。近年は昼カラオケから流れてくる人は多かったらしいが、コロナ禍で、そういう人たちもめっきり減ってしまったという。
長崎街道まで下り、商店街を巡る。魚屋さんはうなぎが名物。惣菜も充実していた。美味しそうな食堂や精肉店も残っている。
江北方面へ向かう道沿いに饅頭店があった。ちょうど「彼岸だんご」を売っていた。最後の2個とのことなので、とりあえず購入。この辺りではきなこをまぶした草餅を彼岸の入りに食べ、中日に「ぼた餅」を食べる風習があるとのこと。
切通にあった煉瓦壁。かなり精密に積まれている。今は工場となっているようだが、かつては何の施設だったのか気になるところ。
町民グラウンド。昔は実業団の杵島炭鉱硬式野球部の本拠地だったという。ジャイアンツV9の内野の要・黒江透修(くろえ・ゆきのぶ)選手らを輩出している。道を挟んで外側に照明塔があった。球場を削って道路ができたのか? 最後に照明塔ができたのか?
そばにカブトムシのトイレがあった。
ゆるやかに上下を繰り返す道。住宅の上のテレビ用アンテナが高い!! ぜんぶ熊本の方向を向いている。しだいに農地が増えてきて町外れの印象が強くなる。
学校の近くでは煉瓦 の小屋や精肉店などが印象に残る。川にせり出したゴミ収集カゴに感心。
長崎街道 に入る。煉瓦壁の窓が良い感じ。セメント瓦で装飾(=役物)を作っている。基本的にセメント瓦は大衆的な屋根で使われることが多い。屋根の隅に役物を乗せているのはあまり見たことがない。
土井家住宅に到着。しっかり見るのは初めてだ。 摺りあげ戸、蔀戸(しとみど)で光と風を調節。引き建具のように左右ではなく、上下に動かすのが面白い。今でも住んでいらっしゃるそうなので、外から静かに見学。
煉瓦小屋の屋根部分は木材でできている混構造(写真1枚目)が多いのだが、モルタル片流れの屋根(写真2枚目)のものがあった。木板横張りの蔵も貫禄があり。さすが長崎街道。
かわいらしい飛び出し注意看板。敷地内にある白く塗られた蔵も良い。
この煉瓦倉庫はかなり丁寧に作られている。開口部の脇に袖壁を入っているのが特徴。扉の上の小屋根の造りも繊細だ。
たばこ屋さんがあった。こういう曲線のカウンター良いですね。横辺代官所跡 を通過。丸太をそのまま梁として使っている民家があった。そろそろ町境に来た。これまで10319歩、7.8km。そのまま江北編に突入します。